先日、久しぶりにテレビを見た際に、尿漏れパッドのコマーシャルが頻繁に流れているのに驚きました。尿漏れって、こんなに一般的なことになっているの?と。

尿や便の漏れ、骨盤内の内臓器の下垂や脱は、骨盤の底部でトランポリンのように内臓器を支える骨盤底筋群が、その伸張性や弾力性や強さを失うことで、臓器をしっかりと支えられなくなることで引き起こされる骨盤底機能不全の症状の一部でもあります。骨盤底筋群の弱化は、妊娠や出産という、身体にとって、ある意味トラウマともなり得る経験に起因するのみでなく、閉経による女性ホルモンの低下による組織の統合性の変化もその要因となり得ます。

内臓器の重量と腹腔内の圧に対して、骨盤内の臓器が押し下げられたり、内容物が漏れ出てしまったりすることがないように、トランポリンのような構造の骨盤底の組織が、そのトランポリンらしい伸長性と弾力性を維持するためには、そして場合によっては一旦損なわれた機能を取り戻すためには、組織を動かして血液循環と供給を高めること、つまり動かすことが大切です。

骨盤底の筋群を動かすというと、何やら特別な運動をしなければならないような気がしますよね?

 

 

骨盤底の筋群のエクササイズとして「おしっこを我慢するような感じでキュッと引き上げて」とか、「ハンモックのような骨盤底が上に引き上がってくるのをイメージして」というような指示を耳にしたことがある方も多いのではないかと思います。

いわゆるケーゲルエクササイズと呼ばれるこれらのエクササイズは、よく紹介されているものではあるのですが、尿意を我慢する感じとか、引き上げるような感覚を意識することで実際に収縮するのは、実は、トランポリンのように内臓を支えている骨盤底というよりも、開口部をキュッと閉めたり開いたりする括約筋になります。出産後など、組織に裂傷があったりして、神経に損傷を受け、感覚が鈍くなってしまっている場合には、損傷した組織に意識を向けるという意味で効果のあるアプローチですが、こういったエクササイズは、実は骨盤底の働きを改善することには期待するほどの効果を与えてはくれないのです。なぜなら、骨盤底筋群も、身体の他の筋肉と同様に、意図的に収縮するのではなく、身体の動きに反応して、動きの必要性に応じて伸びたり縮んだりするから。

骨盤底の筋群をしっかりと動かすには、股関節や体幹の動きが重要な鍵を握っています。なぜなら、骨盤底は、単独で空間に浮かぶように位置しているのではなく、周囲の全ての組織と繋がって、動きを伝え合っているからです。骨盤に近い位置にある関節といえば股関節ですよね?股関節が屈曲(曲がる)したり、伸展(伸びる)したり、内転(身体の中心に向かって大腿骨が動く)したり、外転(身体の中心から離れる方向に大腿骨が動く)したり、内旋(内側へ回旋)したり、外旋(外側へ回旋)したりするたびに、骨盤底もそれらの動きに引っ張られて動きます。

 

 

例えば、赤ちゃんが四つ這いになるように両手と両膝を床についた姿勢で、体重を頭の方向に向かって前に移動したり、お尻の方に向かって移動したりする「ロッキング」という動きで、前後に行ったり来たりするだけでも、股関節の動きに連動して骨盤底も伸びたり縮んだりします。このロッキングの動きを単にまっすぐ前後に動くのみでなく、斜め右前から斜め左後へ、斜め左前から斜め右後ろへの動きに変えれば、真っ直ぐの時とは異なった方向の組織が伸び縮みします。片方の膝がもう片方より前になるように左右差をつけてロッキングをしたり、骨盤の向きを右や左方向に向けることもできるでしょう。

このようなロッキングの動きを、床の上で行うのみでなく、パワープレートの上で行えば、骨盤底に伝わる動きはさらに増幅されることになります。

四つ這いでの動きが楽にできるようになれば、片膝を床についた片膝立ち姿勢で様々な方向に骨盤を動かしてみたり、立ち上がって骨盤を様々な方向に動かしてみたり、あるいは少ししゃがんで立ち上がる、いわゆるスクワットの動作を様々な足のポジションで行うこともできるでしょう。

自分自身の体重が負荷となった状態で、様々な方向へ動くことが楽しくなってきたら、さらに次の段階に進むことができます。自分自身の体重にプラスして、何か重りを持って動いてみる。大きめのペットボトルにお水を入れて、あるいは少し重めに荷物を入れたバッグとか、お買い物袋でも良いでしょう。これらの重りを手にもったり、胸の前で抱えたりした状態で同じように様々な足のポジションで少ししゃがんで立ち上がってみる。

こういった、様々な方向への股関節の動きは、全て骨盤底に伝わります。動きとともに骨盤底が伸びたり縮んだりすることで、本来のトランポリンのような弾力性あふれる強さを取り戻すことが可能になるのです。

こう考えてみると、出産後のお母さんが、赤ちゃんを抱っこして立ち上がって、赤ちゃんをあやすために、赤ちゃんを上下に揺らすようにして少ししゃがんで立ち上がる動きを繰り返したり、赤ちゃんを左右に揺らすように身体を右や左へ傾けたり、赤ちゃんを左右に回すように右や左を向いたりする一連の動きは、実は赤ちゃんをあやしているだけではないようですね。

赤ちゃんという重りを抱えた状態で、様々な方向に身体を動かすことで、股関節の動きと連動する骨盤底も伸び縮みします。この動きが、損傷した組織に血液の供給を促して、組織と機能の回復に役立っている、と考えると、人間の身体と動きって素晴らしいなぁ!って思いませんか?

様々な方向に向かっての動きを楽しみながら、骨盤底がトランポリンのような弾力性を取り戻せたら、尿漏れなんてもう心配する必要がなくなるでしょう。

 

まずは四つ這いでロッキングしてみることから始めてみませんか?

 

寄稿者: 佳織 Kinetikos代表取締役

 

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