久しぶりに激しい運動をおこなった直後や採血を受けた時、稀にコロナワクチン注射を受けた時などに、一気に気分が悪化して立っていられなくなることがあります。
我慢して立っていると、転倒して外傷を負うことになりかねません。前駆症状としては、顔面蒼白、あくび、吐き気、ふらつき、歩行困難などの症状が出現します。
これは「血管迷走神経反射」という生体現象で、ヒトに備わっている生理的防衛反応の一種と解釈されています。経験の浅い運動指導者や採血担当者にとっては、“何事が起きたのか”と驚き、とっさに不必要な心臓マッサージやAEDによる電気ショックなどの心肺蘇生、さらには救急搬送の対応が脳裏をよぎることでしょう。
この血管迷走神経反射とは、心臓や血管の動きを調整する迷走神経(副交感神経の一つ)が予期しない時に何らかの原因によって反射的に、かつ過剰に働いて心臓の動きが弱まり、それに伴って心拍数や血圧が急激に(稀に徐々に)低下し、脳への血液供給必要量が不足する状態を指します。
脳への血液供給必要量の不足(いわゆる虚血・貧血)の程度によっては、あっと言う間に(ほとんどが1~2分以内に発生、長くて15分程度で)失神に至る場合がありますが、血管迷走神経反射性失神の持続時間は1分以内と短く、頭部外傷などを除き、後遺症は残らないとされています。
失神の誘因は多種多様で、個人差がありますが、日ごろ経験しない採血や注射のための針刺行為に伴う恐怖心の増大、運動負荷試験や糖負荷試験を初めて体験したことによる過度の緊張や不安感の増大、著しい疼痛による恐怖心などが主な共通原因です。採血の場合、100例中、2~3例の頻度で起きます。
血管迷走神経反射への対応策
血管迷走神経反射は心臓のポンプ機能の低下によって心拍数や血圧が減少し、脳への血流量も減少する状態を言います。
激しい運動後1~2分経過時の心拍数は、若者なら150~170拍、血圧は160~180 mmHg程度ですが、血管迷走神経反射が起きた時は、心拍数が100拍前後、血圧も100 mmHg未満かそれ以下へ著しく下がります。
気分の悪化が進行(時には失神)する時間は1~2分なので、異変を感じたなら次に示すような具体的なケアを迅速に施すことが肝要です。
① 仰臥位姿勢(仰向け)にして下肢を挙上し、心臓への静脈還流を促進する
② 耳元で大きな声をかけ、頬を軽く叩き、交感神経系を刺激する
③ 腹部ベルトや体を締めつける下着を緩め、下腿部を下から上へさする
この時間帯における血圧や脈拍の測定はケアに値しないと言えます。
特に留意すべき点は、椅子に座らせず、冬場でも冷たい床に横たわらせる(一般的に仰臥位姿勢をとらせ、両足を抱えるか椅子に乗せる)ことが効果的です。迷走神経が反射的に働かないような環境への工夫とともに、個人による自助努力が必要です。
迷走神経が反射的に働く要因として、
(1)久しぶりの激しい運動に伴う持続的恐怖心
(2)体調不良時における立位・座位姿勢の長時間保持
(3)過度の身体的(精神的)疲労、不慣れな環境への暴露(人混みの中・閉鎖空間)
などによる大きなストレスが挙げられ、学校の朝礼や初体験の座禅、通勤時の満員電車、注射を打つ時、採血される時などに起きています。
血圧が下がる要因となる脱水(水分摂取不足)や過度の塩分制限、過度の飲酒、降圧薬(α遮断薬・カルシウム拮抗薬など)が引き金になることもあるとされています。