では、心疾患を持っている人・心臓の具合の悪い人は、食事面ではどういうところに気を付けていけばよいのか、というところを2回に分けてお話ししていきます。
このお食事編も、運動編と同様、これさえ我慢すれば大丈夫、とか、これを食べておけば元気になります、的な、クリアカットなものはありません。

運動編でも述べたとおり、心臓病と言ってもその病態は様々で、その原因に対し、控えたほうが良いもの、積極的に摂ったほうが良いもの、には差異が生じます。
特にここでは、併存疾患としての生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常・慢性腎臓病など)が大きく関わってくるので、こことの絡みで少し詳しく解説していきます。

 

【塩分】
まず、血圧が高めだったり、心臓が弱っている、とか心臓の機能が低下している、などと言われているケースは、塩分に気を付けられることが肝要となります。
厚生労働省が推奨している一般健康成人の塩分摂取量は、男性では7.5g/日未満、女性では6.5g/日未満とされています。一方で、現在の日本人の平均塩分摂取量は、1日10-11gくらい、となっているようです。
われわれ日本人は、ということ自体、ちょっと考え方が古いかもしれませんが、それでも食卓にはお醤油やお味噌、お漬物や梅干しなど、塩分が多いものが良く登場するご家庭も多いところかと思います。意識しないで普通に食べていると塩分摂取が自然と多くなる可能性があります。血圧が高めの方、心臓に問題を抱えておられる方は、塩分控えめ、を意識していくとよいでしょう。

 

【炭水化物・糖質】
炭水化物は、蛋白質・脂質と並び三大栄養素の一つとされ、こと日本食においては『主食』すなわち主に食べるもの、外せないもの、として扱われています。
まず、『炭水化物』と『糖質』の区別から、言葉の整理をしておきましょう。
『炭水化物』=『糖質』+『食物繊維』です。
『食物繊維』は一般的に健康に良いもの、積極的に摂りたいもの、との市民権は十分に得られているところかと思います。

気にしたいのは、ずばり、糖質の方です。
人間が活動する上でのネルギー源となる糖質ですが、過剰に摂取するとそれが肥満・内臓脂肪の蓄積、メタボリック症候群・生活習慣病の発症・悪化、ひいては心血管疾患・動脈硬化性疾患の発症を引き起こすこととなります。

このことから、心臓疾患の中でも、動脈硬化・冠動脈疾患・狭心症・心筋梗塞などのある方については、不必要な糖質の摂取を控えていきたいところです。
患者さんからよく、「1日に何グラム糖質を摂ればいいんですか?」と質問されます。確かに目安があったほうが管理はしやすいとは思いますが、先ほどから何度も述べている通り、その人その人でどれくらい必要なのか、どれくらい余っているのか、は異なってきます。また背景に抱えている病状・合併症・生活習慣病もまったく異なりますので、一概に〇〇gでいいですよ、ということは困難であり、かつ危険なことです。

糖質の摂取量を控えるのであれば、その前の状況でどれくらい摂っていたのか、をまず知ること、そこから目標とする体重・体組成に応じて、マイナス100g/日とか、マイナス150g/日とか、制限を始める前からどれくらい減らすのか、というのがポイントになります。

【蛋白質】
蛋白質については、アレルギーとか腎機能障害などがなければ、心臓疾患・動脈硬化性疾患において、蛋白質は積極的に摂りたい栄養素になります。
一般的な感覚として、病気療養においては『我慢』とか『制限』が重要視される風潮があります。
急性期、病状がまだ安定していないときであればまだしも、ある程度病勢が落ち着いた後でもそれが強いられていると、それは本来必要な栄養摂取不足を招き、結果として病状回復を遅らせてしまう・再発のリスク因子となる、というジレンマが生じることが近年問題視されています。
医療の世界においても、このあたりが『フレイル』『サルコペニア』として、見直しの必要性が叫ばれています。

心臓疾患においても、【運動編】で触れましたが、「心臓が悪い人は家でおとなしくしておいたほうが良い」という一般通念がまだ色濃く残っています。
心臓が悪くなる⇒運動量・活動量が減る+栄養不足⇒筋肉量・体力・運動耐容能が低下⇒疲れやすくなる、元気がなくなる⇒結果として心臓のコンディションは改善しない、という悪循環から抜け出すためにも、適切な運動とともに、適切な栄養摂取は、大変重要なポイントであり、蛋白質の摂取、というのはそのキーになる栄養素です。
実際、現代の日本人の蛋白質の摂取量は、減少している、との統計結果が出ていす。

 

 


出典 1947~1993年:国民栄養の原状 1994~2002年:国民栄養調査 2003年以降:国民健康・栄養調査(厚生省/厚生労働省)

これには様々な理由が考えられますが、代表的なところでいうと、今なお続くダイエットブームや低体重礼賛志向、医療機関での『我慢』『制限』を重要視した指導スタイルなどが根強く浸透している影響がうかがわれます。

心臓疾患、特に心不全を持たれている患者さんは、『フレイル=加齢による心身の脆弱性が出現した状態』『サルコペニア=筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態』をきたしていることが多く、積極的な蛋白質摂取が望まれるところです。

蛋白質を多く含む食材としては、肉類や魚類、牛乳やチーズなどの乳製品や卵、そして大豆などの植物性蛋白質などが挙げられます。
このあたりの食材は、是非積極的に摂っていきましょう。

この続きは、後編で。

 

寄稿者:八王子みなみ野心臓リハビリテーションクリニック