前編では有酸素運動について書きましたが、今回は心疾患を持っている人のための筋力トレーニングについてお話をしていきます。

筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)については、最近その必要性が見直されるようになってきています。心疾患患者さんにおいても、フレイル・サルコペニアといって、病状に伴う筋肉量の低下・筋力低下が引き起こす健康障害が、その患者さんの回復や社会復帰を遅らせる大きな要因となっていることが取り上げられるようになってきました。心臓疾患を持っている患者さんもぜひ筋力アップ・筋肉量の増加は狙っていきたいところであり、筋力トレーニング・レジスタンストレーニングは決して禁止されるものではありません。

問題は負荷・荷重のかけ方と、その時の呼吸の意識、になります。
まず負荷・荷重のかけ方としては、一般的に筋肥大を求めるのであれば最大筋力の60%以上の強度で10-20回くらい、筋力向上を目指すのであれば最大筋力の90%以上で1-5回くらい、が効果的、とされています。

ここで注意したいのが、そのトレーニングをしているときの呼吸についてです。
想像してみていただいて、最大筋力に近ければ近いほど、自分の限界のパワーを振り絞っているときというのは、息を止めている、息をこらえていることが多いのではないでしょうか?
特に筋力トレーニングに不慣れな方、始めたばかりの方にはその傾向が見受けられます。筋力トレーニング中に不用意・不必要に息を止めてしまうと、心血管系に負担をかけてしまうため、心臓疾患を持たれている方にはあまりお勧めできません。

心血管系に負担をかけるメカニズムは大変複雑で、ここで詳細の説明は割愛しますが、息止め・息ごらえをすることで、胸腔内圧が上がり、全身から血液が戻りにくくなるとともに、末梢血管抵抗は上昇するので、心臓から全身に血液は送り出しにくくなります。
結果、血圧・脈拍系に大きな変動を起こします。これを健常者の場合は自律神経系が健康被害が出ないように調整してくれるのですが、心機能の悪い方や普段あまり運動をし慣れていない方はそのあたりの調整能力が低下しており、高負荷の筋力トレーニングによって生じる血行動態の変化(血圧や脈拍など)に対応できず、心血管系に悪影響を及ぼしたり、トレーニングによってむしろ健康被害が出てしまう恐れがあります。
このあたりが心臓が悪い人は筋トレはしないほうが良い、と言われる一つの所以です。

ただ近年では、低強度の筋力トレーニングは心臓に対する悪影響は少ない、むしろ心臓疾患を持った人の長期予後を改善させる、ということがいろいろな研究論文で明らかとなっており、心臓リハビリテーションの領域でも積極的に行われるようになっています。
そういった患者さんの場合、正確な1RM(正しいフォームで1回だけ挙げることができる最大重量)を測定することが困難なケースも多く、具体的に最大筋力の何 %、と具体的な数字を設定することが難しいですが、まずは低強度・無理なくできる負荷設定から始めて、トレーニング中の呼吸様式などに十分注意をしながら、呼吸を止めないよう出来るところを慎重に見定めながら、本人にとって適切な強度設定を行っていくのが通例です。

そういった意味で、高負荷をかけなくても効率的に筋力トレーニング・レジスタンストレーニングを行える運動機器・トレーニングマシンであるパワープレートは大変魅力的です。低負荷・自重でのエクササイズでも、筋肉に効率的に刺激を与えることができ、心臓疾患を持たれた患者さんに対するトレーニングに対しても安心して用いることができ、心臓リハビリテーション専門のクリニックである自施設のトレーニングにおいても重宝しています。

保険診療で行われる心臓リハビリテーションにおいては、心臓疾患を持った患者さんの再発予防として、患者さんの医療情報を集約的・包括的に鑑み、前述の心エコー検査や心肺運動負荷試験(CPX)など必要な検査・評価を行ったうえで、適切な運動レベルを設定し、そしてそれを行っている患者さんの変化や経緯をつぶさに観察し、それに応じてまた適宜運動負荷・強度設定に変更を加える、ということを行っています。

冒頭でも述べました通り、心臓疾患がある、と言っても、その方の心機能や心臓のコンディション・負担の程度などは千差万別です。今回詳しくは触れませんでしたが、残存虚血や不整脈、心臓の構造的異常など、抱えられている病態・運動におけるリスクも様々です。
心臓疾患をお持ちの方で、負荷設定やトレーニングメニューの選定に少し心配がある場合は、ぜひ一度、循環器専門の医療機関、特に心臓リハビリテーションを専門としている医療機関でアドバイスを頂くことをお勧めします。

 

寄稿者:八王子みなみ野心臓リハビリテーションクリニック

関連記事>>