『心不全パンデミック』という言葉を聞いたことがおありでしょうか

パンデミックとは、複数の国にまたがったり全世界に広がったりするような、広域で蔓延する深刻な感染病の大流行、のことを指します。
昨今のCOVID-19感染の世界規模の拡大はまさにこれにあたります。

『心不全』はもちろん感染病ではありませんが、社会全体の高齢化が進む我が国日本において、心疾患を持っている人たちの割合が増え、医療費や医療資源をひっ迫し、医療崩壊の一端となる危険性を感染症爆発になぞらえて、『心不全パンデミック』と呼ばれるようになっています。

さて、心疾患を持っている人・心臓の具合の悪い人、というのは、どういう状態なのでしょう?
具体的な病名を挙げると、急性心筋梗塞にかかったことのある人、それによって心臓の機能が低下している人、狭心症がある人、心臓弁膜症をお持ちの人、不整脈をお持ちの人、そのほかの理由で心臓の機能が低下している人、心臓の手術をした歴がある人、カテーテル治療を受けた歴のある人、などなど、枚挙にいとまがありません。

心疾患を持っている人の生活における注意点

それではこういった心疾患を持っている人たちは、何に気を付けて生活したらいいのでしょう?
心疾患の原因は、心臓そのものにあることもありますが、生活習慣の管理が悪いために引き起こされるケースも多くあります。高血圧や糖尿病、脂質異常といった生活習慣病や、その複合状態である肥満・メタボリック症候群などがその最たるものです。
ですので、心疾患を持っている人たちには、生活習慣の見直しが、大変重要になってきます。

ただ『心臓が悪い人は、家でおとなしくしておかないと、心臓に負担がかかって、病気が悪くなってしまうから、あんまり動かないように、おとなしくしておくに限る』、『運動なんかとんでもない』、そういったイメージがお持ちの人も多いのではないでしょうか?

実は医療の領域でも心臓の非専門の領域では似たような状況が今なお残っており、『もう年だから』とか『心臓が悪いんだから』と、運動を積極的に行われていない・勧められていない現状があります。

食事においては、塩分制限とか、カロリー制限とか、とにかく制限とか我慢ばかりが強いられて、食べる楽しみとか、美味しいものをいただく喜びが無視されていることも、多いのではないでしょうか?

いろいろな原因で心臓疾患は発症し、増悪します。
手術やカテーテル治療などは、その直接的な原因を取り除いたり修復しているだけの【局所治療】にすぎません。これによって病状や症状が大幅に改善することも事実です。
お薬も多種多様様々なものが、そして効果の優れたものがいろいろ活用できます。
ただ根本的なところで、原因・病気の増悪因子が取り除かれない限り、再発することが多いのも、また事実です。

保険診療の領域においては、こういったことを専門的そして包括的に請け負う『心臓リハビリテーション』というものがあります。
一口に心疾患、といっても、心機能のいい人悪い人、肥満の人、やせの人、体力のある人ない人、千差万別一人として同じ人はいらっしゃいません。
こうすればよくなる、これさえすれば大丈夫、というようなマニュアル本があれば便利なのですが、その多様性ゆえに、なかなかそうはいかないのも現実です。

お一人お一人の心臓の具合をはじめとした全身状態を把握し、病気を理解し克服するために術や知識を患者さん自身が身につけることをサポートしつつ、ご自身にあった食事療法・栄養相談や、運動療法・トレーニング計画を一緒にプランニングし、豊かな人生を送ることが出来るようにオーダーメードで支援していくことが大切であり、それこそが心臓リハビリテーションの根源的な目的です。

 

 

 

 

運動不足・活動量の低下は、その人の生活の質を悪化させるだけでなく、生命予後に悪影響を及ぼす、ということは世界中の研究・論文などでも明らかにされています。
いたずらに制限とか我慢とかを強いる事はもはや有害であることは明白な事実です。
精神・心理学、メンタルヘルスの観点からも、喜びとか楽しみといったポジティブな感情が健康増進に大きく寄与することも多数報告されています。

心疾患を再発させないために、心臓のコンディションを良好に保つために、何ならそもそも心臓疾患にならないようにするために、自身の日常生活習慣の中で、何が問題で、どこを改善させればよいのか、これを正しく把握し、自分自身にとって可能な解決策をたて、そして実行すること、そういった攻めの姿勢・ポジティブな態度で臨むことが、とても大切です。

そしてそういった健康増進活動が、クリニックや病院などの保険診療施設の中だけではなく、フィットネスや介護の現場、もしくはご家庭や地域に根差した活動の中でも無理なく実行・そして継続可能である社会を構築していくことが、今望まれるところであり、冒頭で述べました『心不全パンデミック』に対する有効な一手になるもの、と考えます。

次項以降では、もう少し具体的に、どういった運動がよいのか、どういうところに気をつければよいのか、食事の面ではどうなのか、について、お話ししたいと思います。